コラム “be mellow” vol.4

コラム

空想力は、女性を救う?

昔読んだ本を数十年経って読んだら印象が全く違う、ということがある。

私にとってのそれは、志賀直哉の『暗夜行路』。中高生の時、初めて読んだ時には気付かなかった文章に心惹かれたということがつい最近あった。

たとえば、栄花という女義太夫の罪について周囲が語っているのを見て、「あの小娘がどうして、ひどい女だろう……」と主人公である謙作が思う場面。

「それはそういう男でもある時、過去の記憶で心を曇らす事はあるだろう。殺された自身の初子、こんな事を思い出すこともあるだろう。が、それにしろ、みなその男にとって今は純然たる過去の出来事で、その苦しかった記憶も今は薄らぎ遠のきつつあるに違いない。(中略)ところが栄花の場合、それは同じく過去の出来事ではあるが、それは現在の生活とまだ少しも切り離されていないのは、どうした事か。」

そして謙作は、「女性が罪の報いから逃れる事を喜ばない」と特に女性に対して世間の目も厳しいことを指摘する。

 

この作品が書かれてから80年。「女性はこうであるべき」、「こうでなければいけない」という姿は大きく変わった。でも、女性がより母親らしく振舞ったり、より女らしくあったりすることを世間は評価する、ということが未だにあるんじゃないかなぁと思ったりもする。

例えば、乳飲み子がいる女性が子供を保育園に預けて映画を見に行ったり、友達と食事をしていると、世間の、特に同じように子育てをしてきた女性からの視線が厳しかったりすることがある。そんなとき、謙作が自分を私生児として産んだ母親の境遇に思いを馳せたように、私たちもまた、その女性の置かれた状況に空想力を働かせていけたらと。

育児をしていると楽しいことばかりじゃない。誰かに相談できる、甘えられる、母親という部分以外の自分を解放する時間を持つ。そんなことが笑って許せる社会になったらなぁ……なんて思っているのは、私だけじゃないはず、ですよね?

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